PATAGONIA BOOK

PATAGONIA BOOK

もしあなたが自然世界にとって正しいことをすることが会社の収益にとってよいことであることを少しでも疑っているのなら、どこにいようとも今すぐやっていることを止め、座る場所を探し、携帯電話をマナーモードにして、この本を読んでほしい

 

レスポンシブル・カンパニー:パタゴニアが40年かけて学んだ企業の責任とは

 

 

我々の暮らしは自然を脅かしているし、人間としての根本的ニーズを満たせずにいる。世界的に疲弊が進むとともにお金で買えないものの荒廃も進んでおり、我々の健康も経済的繁栄も少しずつ悪化している。どうしてそうなってしまっているのかは、まだ、よくわかっていない。
一方、ここ何十年かでさまざまな新技術が実用化されたことを見ると、創意工夫に富み、状況に賢く適応していくという優れた才能を人類が失っていないこともわかる。人間にはこのほか倫理という観念もあるし、生命に対する慈しみや正義を求める気持ちもある。今後、我々は、このような力をもっと活用して経済活動の進め方を変え、社会正義を全うするとともに環境責任を果たし、我々を生かしてくれている自然や人類共有財産の被害を小さくしていかなければならない。
いまの産業モデルは二〇〇年も前のもので、環境的にも社会的にも経済的にも持続不可能になっているが、どのようなものであれ、事業をおこなおうとすれば、産業モデルの現状から逃れることはできない。その現代における事業責任というものを、地球環境が危機的状況にあり、経済も大きく変貌しようとしていることを踏まえて考えなおそうというのが本書である。

 

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本書の著者はふたりとも、四〇年近く前の創業以来、パタゴニア社にかかわってきた。しかし、パタゴニアの歴史をここで詳しく取りあげることはしない。パタゴニアの歴史に興味のある方は、イヴォン・シュイナードが書いた『社員をサーフィンに行かせよう』(東洋経済新報社)をご覧いただきたい。
本書はパタゴニアにおける経験から生まれたが、事業の進め方を根本的に変えなければならないと考えている人々や、パタゴニアと大きく異なる企業で働く人々にとっても参考となるはずだ。また、なにかをつくっている企業や、パタゴニアと同じようにデザインは自社でおこない、製造は他社に委託している企業を主に取りあげるが、サービスを提供する事業者や非政府組織(NGO)、非営利団体(NPO)なども、働く人々の福祉を高め、環境に対する負荷を小さくしたいと考えていれば本書はとても有益だろう。経営者や管理者だけでなく、仕事をする人全員に参考となるはずだ。いま、事業経営などを学んでおり、今後の長い仕事人生に全身全霊で打ち込み、ベストを尽くしたいと考える学生にとっても示唆に富むだろう。
変化の兆しに気づいているか

 

念のため、ひとつだけ指摘しておこう。パタゴニアは、もともと手っとり早く稼ぐためにつくられた会社で、リスクを取って環境問題を追求する内省的な会社をめざしていたのではない。
もととなったシュイナード・イクイップメント社は、世界一と評判のクライミング道具をつくっていたが、ほとんど儲からなかった。石炭炉で金属を熱し、ハンマーでたたいてピトン(岩の裂け目に打ち込む金属製のクギ)をしたり、押し出し成形したアルミニウムからチョック(岩場を傷つけないピトンの代用品)を切り出したりというきつい仕事を毎日一〇時間も汗水たらしてするのではなく、事務仕事だけで簡単かつクリーンに儲けられる会社──それがパタゴニアだったのだ。ウェア事業なら高い金型を償却する必要もないし、顧客も、薄汚れたクライマーなど比べものにならないほど多い。そのころは、コットンが石炭に負けず劣らず汚いなど、誰も知らなかった。
シュイナード・イクイップメントでは生死にかかわる製品を取り扱っていたので、たとえばピッケル(登山用つるはし)を販売するとき、髪の毛ほどの細い傷さえもないことを必ず確認していた。ラグビーシャツにも同じ基準を適用したが(ロッククライミングは皮膚がぼろぼろになりかねないスポーツであり、そこで使うラグビーシャツは厚くて丈夫でなければならない)、縫い目がほどけたからといって人が死ぬことはまずない。つまりパタゴニアは、我々にとって、ぬるま湯に浸って濡れ手に粟の利益をあげ、シュイナード・イクイップメントを黒字にするという無責任な会社だったのだ。
だが、ウェアをデザインし、他社につくってもらって販売するという「実際の」仕事をしてみると、事業者として担うべき責任があることが少しずつ、いやでもわかるようになった。本書では、そのような点に気づいた瞬間についても紹介していく(一番よく使っている天然繊維のコットンが最も有害だとわかった瞬間など)。このような話を通じ、一歩進めば次の一歩が可能になることがわかっていただけるものと思う──当たり前のようなことかもしれないが、大事なポイントだ。
それでも、パタゴニアがのモデルだ、などと言うつもりはない。責任ある企業ならやれるはずのことを我々がすべてしているわけではないからだ(我々が知るかぎり、そこまでしているところはない)。しかし、事業を推進するにつれ、自分たちの環境責任や社会責任に人々が気づき、自分たちの行動を変えていく様子を紹介することならできる。気づきは波及するもので、ひとつの行動は次の行動につながっていく──その様子も紹介できる。
クライマーやサーファーという人種は自然を愛し、そのなかにいたい、自然の一部になりたいと強く願う。パタゴニアはもともとそういう人たちを相手に商売をしていたため、自分たちは一風変わった事業者なのだと思いこんでいた。二〇年前、シャネルのスーツに真珠のアクセサリーを身につけ、トッズのハンドバッグから『フォーチュン』誌を取り出すような女性と飛行機で隣り合わせになっても(そういう女性の隣に座るには、ビジネスクラスにアップグレードしてもらうという幸運が必要だったわけだが)、共通の話題はほとんどないと考えていた。
いまなら、デザインから在庫管理、材料不足が長期計画に与える影響まで、いろいろな話題を出すことができる。さまざまな会社の人々と話をしてきた結果、パタゴニアはそれほど変わっていないし、変わっているとしてもごくわずかだとわかったからだ。人間とネズミでも遺伝子の九九%は同一だそうだが、同じように、ウォルマートや石油大手のBP、パタゴニアもそれほど違うわけではない。パタゴニアが違って見えるのは、社会や環境を変えたいとオーナーが願っているからだろう。株式が非公開なので、リスクが取りやすいという面もある。だが、会社の経営という面では他社と同じスキルが必要だし、同じようにチャンスを追求するし、同じように競争や制限に直面する。
我々自身、もともとクライマーでありサーファーであり、自然と直接的にかかわってきた。だから、他社よりも早い段階で環境危機に気づき、行動を起こせたという面はあるだろう。だが、我々が気づいたことは、早晩、業界内に知れわたる。すぐに、環境問題や社会的問題に対応しようとする事業者のあいだで情報交換が始まった。
昔は、アイスクリームショップのベン&ジェリーズ、化粧品やボディケア用品大手のザ・ボディショップ、ガーデニング用品大手のスミス&ホーケンといった企業の経営者と情報を交換した。のちには、REIやザ・ノース・フェイスなど、アウトドア業界の企業と協力し、自然を原生地として、あるいはレクリエーション地域として保護するNPO、〈ザ・コンサベーション・アライアンス〉を立ちあげた。
自分たちのやり方や、仕入れ先が自分たちのためにしていることを冷静に見つめなおした結果、そのやり方に無駄が多く、自然を汚していると気づいたとき、我々はアドバイスと支援を、同様の懸念を持つ他社に求めた。リーバイ・ストラウスやナイキ、ティンバーランド、ギャップといった大手企業などだ。
この分野の先人にも相談した。たとえば、すばらしいカーペットタイルをつくるインターフェース社を興したレイ・アンダーソンなどだ。彼はポール・ホーケンの『サステナビリティ革命──ビジネスが環境を救う』(ジャパンタイムズ)を読んで衝撃を受け、『エコノミスト』誌が死亡記事で書いたように「アメリカで一番グリーンなビジネスパーソン」となった人物である。責任ある事業を展開したいという想いを抱くのは、我々だけではなかったのだ。
コストを増やすことなく品質を高めたいと考えたときは、ジャック・スタックからいろいろと教えてもらった。ジャックには、経営不振に陥ったスプリングフィールド・リマニュファクチャリング社を仲間とともにインターナショナル・ハーベスター社から買い取り、現場社員の声を聞く管理手法である参加型経営とオープンブック・マネジメントという手法で再建した経験がある。我々は、そのジャックから、トップだけでなく、現場の力も結集しなければ事業戦略の成功はおぼつかないと教えてもらった。

 

労働文化が変わる、消費者も変わる

 

このようなことを我々がしているあいだに、世の中では労働文化が大きく変わった。ここ二〇年間で台頭したシリコンバレー企業は、職場のルールが昔と大きく異なる。よく知られているように、フィットネスルームや飲食物は会社負担。グーグルには労働時間の二〇%を好きなことに使っていいというルールもある。このルールを我々が知っているのは、大型動物が気候変動と開発によって生息地を追われ、移動していく経路をマッピングしようと原生地関連の活動家たちが努力していたとき、グーグルアースの社員が何人か、労働時間(と専門知識)を投入し、支援してくれたからだ。
健康志向のパン屋さんや醸造所が増え、有機農法が普及し、有機農法でつくられた作物の直売所も増えた。健康食品と呼ばれていたものがごく普通に売られるようにもなった。エネルギーと環境に配慮した建築であるLEED認証が導入された結果、建物が環境に優しいと職場環境が健康的になるし、所有者にとっても投資家にとっても、優れた建物のほうが長期的には得であるとの認識が広がり、建設業界も大きく変わった。
社員のニーズに対する意識が高く、また、自然とは傷つきやすいものだと考える新興企業がたくさん生まれているし、古い企業も考えを改めるところが増えている。だが、当社を含め、その努力は十分だと言えるレベルではとてもない。
事業の進むべき道を考える場合、どのような業界でも、エネルギー資源や水資源が不足しつつあることやその価格が上昇しつつあることを考慮しなければならない。廃棄物のコストやその廃棄コストが上昇しつつあることも考慮しなければならない。昔ながらの産業構造は無駄が多くて汚染の排出量が多く、コストも次第にかさむようになりつつある。この古くてガタがきた産業構造を廃し、命をあまり削らずにモノがつくれる新しい方法を確立しようと、いま、さまざまな企業が努力している──大規模小売店のウォルマートからチーズ専門店のピザ屋さんであるチーズボード・コレクティブにいたるまで、あるいは、大手石油会社のBPからファットタイヤ・エールの醸造所にいたるまで、あるいはまた、化学会社のダウ・ケミカルからパタゴニアにいたるまで、だ。オールドエコノミーが崩壊する前に、ニューエコノミーを確立しようと、皆、がんばっているのだ。
消費者の意識も高まっており、さまざまな疑問を投げかけてくる。製品やサービスが自分や子どもを傷つけることはないのか。製品をつくるにあたり、なにがしかの形で作業員が傷ついたり、コミュニティが傷ついたり、あるいはまた、材料が採掘あるいは栽培される地域が傷ついたりすることはないのか。社会や環境に対する負荷に見合うほどの価値が製品にあるのか。負担以上のメリットがあるように見えるものもあるが、我々が仕事をすれば、その仕事が有機種子や下肥用コンポストの販売でもないかぎり、環境はよくなる以上に必ず悪くなる。
製品にどのような問題があるのか、積極的に知ろうとしない消費者もいるが、そのような人も、たまたま知ることがあれば気にする可能性が高い。しかも、いまは、ドキュメンタリー番組の「60ミニッツ」を観たり、『マザー・ジョーンズ』誌を買ったりしなくても、どの企業が化学薬品を川に垂れ流しているのか、あるいは、山を崩して川に流しているのかを知ることができる。カメラ付き携帯電話とブログさえあれば、誰でも警鐘が鳴らせるようになったからだ。その警鐘を広く知らせようとする人々もいる。

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